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風のかよひ

そのわきの冷や奴うすし遅い昼食はむとし鯖の塩焼きとれば

豚汁と冷や奴のみのおかずの日寮の暮らしにありきいとしゑ

冷や奴で飯が食へるかそんなことおもはぬでなし今におもへば

ざらつきのある葉と見えてよぎるとき向日葵をしるす札並びをり

わづかにも手をかけてよぢのぼるごとし緑の網の若きあさがほ

たとへば蛍、とぢこめて手を合はすとき指はとがりぬ苞の形に

ひらくすなはちとびかふ蛍そのやうに花咲かせゆくアガパンサスは

桟橋の間だけでけつこうです 言はれて五〇円のマスクを買ひぬ

白鳥ボート波にまかせて休むとき風の通ひのひとときに会ふ

車うごかすごとく慣れたる手つきにてハンドルまはすは眩かりけり


(2020/06/16 18:34 noteより転載)

紫をさす

職場よりもどる夜道にろくろ首伸びゆくさまの花茎うかびぬ

伸びのさかりの花茎の先に点りゐる苞をぬらしてはじまる梅雨は

マンションのたもとを過る通勤のはじめとをはり花まだ咲かず

ろくろ首の噺の首を長くしてアガパンサスの花咲くを待つ

なかばまでひらける苞のうちがはに寄りあふちさき莟は見たり

ひらきつつある苞のなか咲かむとし莟つどふは楽団のごと

オルゴールにおどる小人の夜の楽しづかにひらけ花のつぼみは

養子にこないか、そんな話のひとつふたつ錆びながらにほふ雨が六月

松下の姓をつかひて暮らしゐしみじかき日々が戸籍にのこる

ひらきたる花のひとつが薄闇にしづくのごとき紫をさす


(2020/06/13 20:30 noteより転載)

今年のつぼみ

アガパンサスの去年の骸の居残れるひとところあり路の隔てに  去年=こぞ

ひらきたる花の形のそのままにひととせばかりを干涸びてをり

あたらしく莟つけたるアガパンサス伸びさかりたり六月五日


(2020/06/07 09:29 noteより転載)

つぶやいたうた

2020/3/8
タクシーのドア開けて出て吐いてまた乗つてドア開けて出て吐いてまた

2020/5/9
お茶割りの麦茶がきれてまだぬるいままの麦茶で割る芋焼酎

たし算

五月三日、大天国百首会(後篇)

明るいところにふっていたのが光だとして今日はもういい風になりたい
光のなかで震えるように眠るときうすいソーダ水おいしい
ゆっくりとここをはなれて しずかだがやすらぐところ泡立つように
夢で会ったときの話をもうすこし聞かせてほしいそのままでいい
むかしだったらおもわなかった夕暮れがもうすぐそこに近づいている
戦ったつもりだったよでもだめでそこから長い川べりの草
りんごの芯にだきついてまわるまわるまわる星になったみたいだ
観覧車まわる乱反射まわるみずのながれのままにしたがう
厚いころもと薄いころもがあるでしょういずれにしても海老フライだから
タンバリンぱりん耳なりの底のいつまでうたっているバンドマン
そこからが長かったんだとふりかえる百日紅の実のともる坂道
静電気あびたみたいにまっさらなわたしにもういちどなれたら
ゆるぎないところからずれてゆくような胸うつようなはつ夏の風
あそこあそこちがうあっちあの島のよこのそうそうそれえっとそっちじゃない
たぶん夢が先にくるからそれまでは川面の光にでもなってりゃいい
あせったら駄目でもよく見るの遠くからでも光ってるあいつは駄目だ
ゆっくりと凍るから夜がおわらないうちは大丈夫だから行くから
二階から梯子つかって三階へあがるときこう風の横腹
やる方がやられる方になりながらみなどろどろと融かされてゆく
夜になったらあいつが下でおれが上あかるくなるまえに眠らなきゃ
夜だけは泉の栓をぬきながら暴力だけがまぶしかったよ
たよりない飛沫をあげた いっかいもにかいもおなじ眠るときには
昼のわたしが夜のあなたとなりながらなんどでもなんどでも近づく
あまったらいただけますか右ねじの法則だったときの分まで
半径をどんどんおおきくしていって直線になるまで休めない
60°と420°がすれちがういっしゅんにして二度とない恋
ここにいるうちに足し算しておくねむこうでは足し算ができない
かけ算はいっしゅんだけどたし算はほんとうのときにだけ実をつける
欲がでちゃだめなんだよとうなされる夢から覚めた気になるんだな
そっちもいいけどこっちはもっといいという罠みたいなのはひとつでいいよ
骨だけをじっと見ていたおじさんがこのへんの肉がうまいんだと言う
でもそこの身のかたさとかやわらかさわかるんですかわからなくても
溢れ出す光の束をだきとって水にもどるまでここにいる
今夜しずかに西から東に傾いてとおくであがる青年の火よ
向こうから来るのがわかるでもそれが絆ってこと逃れられない
遺言をかくときどこまで見えるだろうきみのこと、きみのこれからのこと
泣きそうで泣かないままのきみだから口乾くまで砂を詰め込む
泣いたら終わりなんだから泣けよでもそれはいつまでも見ていない顔だね
これからがこれまでよりも大事とかぬるいこと言ってんじゃねえですよ
書いたからもう大丈夫わすれてることはわすれたままがいいから
凭れつつこわれた椅子がオードリーふたりのなかに花火をあげる
そっちから言いだしたこと菜の花のどっちがあたまでもかまわない
つっぱりが弱くなりだしたあたりからおかしかったよちゃんこ鍋の味
カツカレー食べおえた口に海老フライながしこむときこそハーモニー
だったらもういいんじゃないの月がほそいから暗かった道のおわりで
こぼれそうなイクラをもどし軍艦は口へと運ばれてゆくのでしょう
おいしいもの食べるとおなかがいっぱいになるからいやだでも食べるよね
あたたかい落ち葉だったよもう誰も踏まないけれど覚えているよ
花束がほどけていくとあらわれるもうひとつの花束がほんとう
梅のにおいがここで匂ってくるのかよまだちょっとだけ寒い五月の


(2020/05/04 01:16 noteより転載)

プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎『温泉』ご購入はこちらから。現代短歌社のオンラインショップです。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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