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2月の連作

2020年2月の諸誌紙から、気になる連作をピックアップします。(順不同)

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池田はるみ「初の子年を」33首(「短歌往来」2月号)
前半、「ばあば」詠とはちがった側面がおもてにたった一連で、文体はわりあいさっぱりきっぱりしている。その中に〈寝る前に「もうしんどい」とわが言はぬしんどいはまだ少し先だよ〉〈遠き日のこのマンションはおつとりと妻が守れる空間だつたよ〉といったうたがさしはさまれ、この「よ」の口調に「ばあば」がちらっとうつる。語りかけのうただが、一連に物悲しさをあたえるようで、後半の「ばあば」詠への誘導にもなっているようだ。


大平千賀「ローリエ」5首(「うた新聞」2月号)
ささやかながら、一首一首にうまみがあって、引き締まった連作とおもう。〈浴室の窓を覗いて淡雪がすみずみに落ちてゆくのが見える〉、まだ雪の落ちていないところを埋めるように「すみずみに」まで降りおちる淡雪。〈夜の庭にローリエの葉を摘みとって涼しく香る手のひらとなる〉の「なる」。どのうたも体温のようなものを共有していて、それが一連をゆるやかにひとまとまりのものにしている。

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ほかに2月に読んだ連作から。

小島なお「蟹剥き」12首(「COCOON」3号、2017.3)
四首ひとかたまりの話題が三つ置かれるような構成。二つめ、三つめにはそれぞれ「糸魚川の大火事」「茂吉のふるさと」と詞書がつく。全体として無理にひとつらなりになるようにしている、というふうではなく、だからといってまったくばらばら、というふうでもないのがいい。どのパートにも印象的なうたがあった。


松井恵子「黒蜜」12首(「COCOON」7号、2018.3)
前半五首、〈妊娠の分かつた日から夕焼けの光にチェロの音が混ざつた〉からはじまり、妊娠から出産までという気持ちになりながら読む。ところが六首目、〈音読の声に広がるひらがなの花びら揺れてゐる子供部屋〉とあって、時間の感覚をすこし調整する。二人目とか三人目の子どもを妊娠しているのか、あるいはもっと大きな時間幅で一人の子の妊娠を振り返りつつ今にかえってくる連作なのか。あまり気にせずに読みとおせたのは、一連がストーリー展開によらないからだとおもう。うたとうたの、なにか緊張感のようなものに統一感があった。


牛尾今日子「旅日記拾遺」10首(「八雁」2019年11月号)
一首目の詞書に「ウズベキスタン」とあって、これが全体におよぶのだとおもう。その土地の空気感と、そこにはいりこんでしまった「わたし」が、その体感がえがかれる。〈どうしてか見てたらわかる日本から来た女の子わたしのほうも〉、ちょっとした挙動や、その人のまとっている気のようなものから、「わかる」し、同じようにむこうにもわかられる。〈みぎひだりに尻尾を振って歩いている牛を抜かして子牛も抜かす〉、四コマ漫画のようなたのしさがある。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎『温泉』ご購入はこちらから。現代短歌社のオンラインショップです。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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