FC2ブログ

1首鑑賞360/365

萌え出でし柳に染まり歩み去る他人の妻は斯くも新し
   佐藤秀『冬川』

     *

このうたも「他人の妻は斯くも新し」という下の句にびっくりする。「他人の妻」というものをあらためてそうとして意識し、それでもって「斯くも新し」と断じる。

自分の妻と他人の妻がちがうのは当然なのだが、ふだんはそうと意識しない。だいたい「他人の妻」ということはすなわち「他人」であり、「妻」ということはどうでもいいことではないか。ここではだから、「妻」という〈役割〉や、おのれにとっての「妻」という〈位置〉が、意識にある。たとえば「うちの妻はこんなことしないのにな……」とか「うちの妻ならこうなるのにな……」ということをおもっているようなのだ。「他人の妻」がおのれの妻のごときふるまいをするはずはないのに、「妻」というものはみなこうであるべき、とか、こうであるものだ、とかいう規範や固定観念があるのである。〈役割〉とか〈位置〉とか言ったのはそういうことである。この「斯くも新し」というのは、ひどく生々しく感じられる。

「萌え出でし柳」というのはひとつには季節の提示だが、一方で「新し」の象徴のようにも映る。「染まり」によって「他人の妻」と「萌え出でし柳」が境なくとけあうような印象すらある。「他人の妻」に対する新鮮なおどろきが、生々しくこの人の妻-観をにおわせる一首である。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

最新トラックバック

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR