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1首鑑賞357/365

興福寺五重の塔をあふぎたり全き物はもの思はせぬ
   窪田空穂『冬日ざし』

     *

興福寺の五重塔を見あげて、なんともことばにならない思いでいる。「なんも言えねぇ」(北島康介)の心境というか、呆然としているわけである。「ことばでは言い表せないような」とか「ことばにならない」といった形容は、ふつう避けられるようにおもう。ことばを使ってなにかを表現する場合には、なおさらである。

しかしこのうたのすごいところは、「なんも言えねぇ」と言っているわけではない、というところにある。〈「全き物」を前にしたら人は、「なんも言えねぇ」という状態になる〉ということを発見しているのだ。なにも言えないおのれを、ひとつ抽象的にとらえて、「五重の塔」が「全き物」であるということよりもむしろ、そういうものを眼前にしたときの人間の状態をうたっているのだ。これがただの呆然とはちがう。

しかしまあ、こういうことを思わしめるのだから、やはり興福寺の「五重の塔」というのは「全き物」なのだとおもう。細部についてあれこれ言わせない、常人には手がかりさえもあたえない、そういう「全き物」の姿というものがおもわれてくる。


※歌の引用は、大岡信編『窪田空穂歌集』(岩波書店、2000)によります。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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