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1首鑑賞356/365

今の時に野球何ぞと思へども眼前のことは大いなるなり
   窪田空穂『冬日ざし』

     *

昭和十四年、「野球早慶争覇戦」の折の一首。

昭和十四年(1939年)と言えば、九月に第二次世界大戦が始まった年である。「今の時に」というのは、そういう世界の、あるいはそのなかにあって日本国内の情勢を言うものだろう。ことが進んでいくにつれて、いよいよ「野球何ぞ」という風向きになってくる。「思へども」の主語は「われ」にちがいないが、状況と「われ」とは関係せずにはありえない。野球何ぞとおもっていないわけではない、おもってはいるけれど……というこの上の句は、どこか予防線のようにも聞こえる。

下の句、「眼前のことは大いなるなり」とはさっぱりとして爽快、しかし切実でもある。いろいろ考えてはみても、結局、目先のことが大事である。目先のことがどうにかならなくては、その先はありえない。今日の食事、いま必要なお金がなにより大事である。それがたとえ、人の生き死にには直結しないような「野球」であっても、である。この場合は、「早慶戦」という大事がある。勝つか負けるか、意識が離れない。「早慶戦」というものの求心力をおもう。たのしい一首として読んだ。


※歌の引用は、大岡信編『窪田空穂歌集』(岩波書店、2000)によります。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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