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1首鑑賞354/365

神楽坂(かぐらざか)の夜店(よみせ)に買ひて、部屋に飼ふをさな鈴虫、共にゐる三つの一つの、いち早く鳴きいだしては、つゆの雨さみしき夜(よる)を、声澄みて鳴きつづけしが、又の日は鳴かぬに見れば、籠抜(ぬ)けて逃げ去りにけり、鳴ける鈴虫。
   窪田空穂『さざれ水』

     *

「鈴虫」という題の長歌である。空穂に長歌の多いことを、はじめて知った。「神楽坂の」という固有名詞、「部屋にゐる」「三つの」「いち早く」「つゆの雨さみしき夜を」「声澄みて」というふうに、少しずつ仔細が出され、また、わずかにも事が起こり、進み、というささやかな一首である。「籠抜けて逃げ去りにけり」は笑いをさそうが、結び「鳴ける鈴虫」には悲哀がただよう。おかしくも切ない光景である。


※歌の引用は、大岡信編『窪田空穂歌集』(岩波書店、2000)によります。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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