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1首鑑賞351/365

秋のひかり到らぬ隈はなかりけりわが家の小さき庭も明るき
   窪田空穂『鳥声集』

     *

詞書というべきか、このうたを含む歌群のまえには次のような小文が載る。

秋の光がなつかしい頃になつた。見る程の物が清らかによわよわしく、同時にその物の命をあざやかに現はしてゐる。
(以上、引用)

秋のひかりがやわらかく、そして隈なく差しわたり、物の存在感がやさしく照らし出されるような、そんな光景である。やわらかく、またこまごまとしていて隅にまでわたる、というのは「秋のひかり」ならではであろうとおもう。じっさいにどうかはともかく、気持ちとしてはそういうふうにおもわれてくる。夏のひかりのいかにも直射する感じ、冬のひかりの乏しく、また春のひかりの地に降りず空間をただようような感触をおもえば、なおさらである。

掲出のうたでは、そのことをまず大きく述べ、それからその具体として、「わが家の小さき庭」に及び明るくする秋のひかりをうたう。「小さき」とは言え「庭」であるから、「隈」としてはいささか大きすぎるようにもおもう。しかれば、この「秋のひかり」というものの照らす範囲、「秋のひかり」の影響にある範囲というのは広く大きく、皆にとどくようなものであろうとおもう。分け隔てなくひかりをこぼす、秋という季節への感慨がある。


※歌の引用は、大岡信編『窪田空穂歌集』(岩波書店、2000)によります。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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