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1首鑑賞315/365

春光に足ゆびの爪切りたればひかりに飛べり若き日のごと
   小池光『梨の光』

     *

爪切りで爪を切っていたのはいつまでだろう。もう長いこと、二十年近くになるか、爪を切っていない。下品な話なのだが、噛むとか剥がすに近いやり方で伸びた爪を整えている。それでも爪切りでパチン、とやって弾みで爪がとぶあの光景をよく覚えている。

「若き日」を遠く離れ、弾力というものと親しくなくなっていく。皮膚はかわくし、動きもぎこちなくなる。肌をおしてもおしかえしてくる力がない。バネのような走り方歩き方も遠い日のものである。そんななか、パチン、と音を立てて飛んでいく爪の弾力がまぶしい。軌跡がいとおしい。春のひかりのなかに、どこかみずみずしいもののごとくにうつる。おのずと、若き日の姿がおもわれるのだ。

「春光に」にかさねて「ひかりに」が差し挟まれる。爪ばかりではない、わが若き日の「飛べり」のさまざまがおもわれてくる。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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