FC2ブログ

1首鑑賞275/365

泣く人を昔は馬鹿にしていたよ 日向に影をくっきりと率(い)
   永田紅『春の顕微鏡』

     *

泣いたことがない、と言う人がいる。なんで泣くのかがわからない、というような困った顔で。いちいち泣くなよ、と言う人がいる。泣くようなことじゃないだろう、という呆れた顔で。いや、本当になんで泣くのかわからない、と得意気に言う人もいる。いずれにしても、どことなく「泣く人」を「馬鹿に」している感じがある。そんなふうに、この人も昔は馬鹿にしていたと言う。「昔は」と言いつつ、しかし「していたよ」という口吻は、今もほんのり馬鹿にしているふうである。

下の句でえがかれているのは昔の自分の姿だろう。「くっきりと影」はあるのに、日向にいてもそのことを思わせない。泣くまいとして力んでいる。だからこそ、泣いてしまう人を馬鹿にしていたのだとおもう。耐えられない人、として。わたしはこんなに我慢しているのに。だから泣きたかったけれど泣けなかったのだ、この人は。上で挙げたどの人にもあてはまらない。泣きたかった昔のわたし。それが今の時点から振り返ると、いっそう「くっきりと」映るのだろう。「していたよ」にこもる「馬鹿にして」いる感じは、昔のわたしへの眼差しだったのだ。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

最新トラックバック

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR