2019/08/08
1首鑑賞220/365
また母の咳がとまらず午前より午後あぶらぎる蟬声のなか小島ゆかり『六六魚』
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きのう、きょうと夕立が降った。昼はそうとうに暑いのだが、夜すこし涼しくなる。蟬声はあいかわらず激しい。掲出のうたに出てくるのはむろん油蟬だろう。その蟬声を「あぶらぎる」といっておもしろさ以上に説得力があるのは奇妙だが、「午前より午後あぶらぎる」というディテールがよりそれらしくおもわせているのかもしれない。たしかに午前と午後では蟬声にもいくぶんちがった印象を受ける。その声が「母の咳」をかきけすようにうるさい。しかし「母の咳」もとまらぬ。えんえんとつづく苦しい時間が生々しく痛い。「また」であるから、夏のあいだ、いくどとなく繰りかえされる光景なのである。ただじっとしているしかない、その切ない時間をおもう。
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