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実感から遠くなる言葉 -5-

前回の更新が2013年なので(……)、いまさらその続きを、ってことではないが、なんとなくつづきのように書く。

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短歌をつくるときのことを思い返すと、おもに、二つの場合が考えられる。

(ア)こころの動きをもとにつくる
(イ)構想をもとにつくる

である。

(ア)における「こころの動き」というのは、なにかがあってこう感じたとか、なにかを見てこれはこういうふうに考えられるといったもので、それは感動や発見、認識、感情、驚きなどのことばで表されるようなさまざまなこころの動きを表す。それを契機として、あるいは短歌のたねとして、1首を形にしていく、という場合だ。(イ)は、たとえばレゴブロックをつかってなにかひとつの構造物をつくるように、手持ちのパーツを組み合わせたり呼び起こしたりして、また、設計の方法や構築の技法などを組み合わせて、1首を形にしていく場合だ。

いずれも便宜的に「もとに」と書いたが、こころを動かし「つつ」つくることも、構想をし「つつ」つくることもあるだろう。また、ここで「つくる」ということばを使ったが、このことばには(イ)への肩入れがあってフェアでないようにも思えるが、とくにそういう意図はない。適宜「詠む」や「うたう」や「書く」などに置き換えていただきたい。あるいはほかにも、なにをもとに、どんなときに、どういうふうに作品をなすかについてはさまざま立場があるとおもうが、なかなかそれが語られる場面は少ないようにおもうし、いますぐに思い浮かぶものもない。それゆえひとまず、(ア)(イ)のように大別して挙げた。

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手元に『現実のクリストファー・ロビン 瀬戸夏子ノート2009-2017』(瀬戸夏子、書肆子午線、二〇一九)がある。さまざまな文章のなかでとくに日記の部分をおもしろく読んだのだが、作歌についての次の文章におどろかされた。ほとんど明け透けに作歌の方法が語られている。こんなことってあまりないんじゃないかとおもう。引用は「ほとんど真夜中に書いた日記」の2016年8月22日の項から。

たとえば紀野恵の《いちぎやうですらりと歌をつくり棄て長い散歩に出やうとおもふ》のように、初句五音から結句七音までをさらりと詠みおろす歌人もいるのだろうが(かならずしも紀野がそうだといっているわけではない)、すくなくとも、私はまったくそのタイプではない「歌つくり」である。ここ一年くらいは結句七音からつくりはじめることなども好んでいる。結句七音からつくりはじめる場合には上に向かって「ひらいていく」ことを意識したりするが、だからといって上句が重くなりすぎないことには注意するし、また必ずしも結句七音から順番にさかのぼってつくるわけでもない。また、ここ数年、歌をつくるときには図形をイメージすることも多い。数学がまったくできないので、説明がむずかしいのだが、何十、何百と、いろいろな向きでくちゃくちゃに絡みあった図形を、その都度思いうかべて、イメージしながら音韻と意味と助詞のバランスを考えて歌をつくったりする。きょうは四首。



「詠みおろす」のではなく「歌つくり」である、その方法がおおまかにだが、はっきり書かれている。筆者の話をすれば、うたをつくり始めたころはフレーズだけがメモにあって、それを組み合わせて1首に整形していく、ということがよくあった。いまはほとんどない。フレーズだけをメモする機会は限りなくゼロに近い。しかしだからといって「詠みおろす」というふうでもないな、とおもう。ともかく非常に新鮮に、緊張しながらこの文章を読んだ。

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うたは「詠む」ものか「作る」ものか、ということを以前書いたことがある。そこでは俵万智と小池光、それぞれの第1歌集から「あとがき」のことばを引いて、作歌の方法について考えた。「あとがき」のことばであるから、それをもって作者の態度とおもうのは早計だが、考えの補助線くらいにはなるとおもう。このときはいざうたの形にしていくときの〈方法〉について注目したのだが、はじめに提示した(ア)(イ)の分類は、どちらかと言えば〈動機〉のほうに踏み込んでいるような気がする。

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「実感から遠くなる言葉」という一連の文章は、おそらく、作歌の〈動機〉としては「実感」がまずあり、それはいかにしてうたの形にしていくか、その過程で変質してしまうのではないか、ということを考えようとしたものとおもわれる。「実感」なんてものが〈動機〉としてない場合、この話はまったく意味をもたないし、また「言葉」があるから「実感」というものを表しうるのであって「実感」なんてものはそもそもない、という立場からみれば、それもまたこの話の前提をくつがえすことになる。このあたりまだまだ整理が必要で、たとえば吉川宏志『風景と実感』(青磁社、二〇〇八)なども読んでみなければならない。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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