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1首鑑賞161/365

夜を照らす「並」や「卵」の字に触れて食券を買う国道沿いに
   吉川宏志「夜業」『短歌研究』2019.6月号

     *

松屋、吉野家、すき家のなかでも松屋にはなんとなく思い入れがあって、ときどき入ろうとおもうときはだいたいが松屋だ。昨日も牛めしの特盛550円を食べた。隣のひとが、ライス単品に生野菜と温玉ふたつという通いなれた感じの注文をしていていたく感激した。

大学受験のために博多に泊まったとき、ホテルのそばにあった松屋で夜を食べた。興奮して定食を2つも食べた。そんな体力はもうない。街の体験だった。時折その店の前を通ってみるが、いま見るとふつうの松屋である。そんなものかなあ。高校を卒業するとき学校の近くにすき家ができた。松屋を知っているのでたいして興味もわかず、開店初日のそれはそれは長い行列を不思議のおもいで見ていた。

大学生になって、寮の近くにはたいして食べるところもなかったが、自転車で15分くらい行けばすき家があって、別の方向にこれも自転車で20分ほど行けば吉野家があった。やっぱり興味がもてなかった。だいたいこれに限らず初めての体験に対する執着があって、知らない町ではなまるうどんを見つけると嬉しくなってつい入ってしまう。マクドナルドは食べたくもないのに体調がぎりぎり許すときには無理して入ってしまう。

2年半ほど前まで住んでいた町は、駅からすこし行ったところに松屋があった。よく通った。だいたいネギ塩豚カルビ丼だった。みそ汁が熱いので水で割って飲んだ。県道560号は幅の広い道だった。店は深夜でも明るかった。「並」の字にも「卵」の字にも触れたことはなかったけれど、「特盛」の字にはよく触れた。ボタンだったか、もうタッチパネルだったか。吸い寄せられるように字に触れる指の先と白い光と車の流れと日々とが、一緒くたに思い出される。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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