FC2ブログ

1首鑑賞160/365

海よりのぼり海へと溶くる盆花火 誰も声なく照らされてをり
   梶原さい子『リアス/椿』

     *

盆花火であるから、そもそもがそう騒がしいものではないのだろうが、「誰も声なく」の静謐はとりわけ印象強い。東日本大震災ののちのうたである。海を、花火を見る眼差しは、おのずとあの日、あれからの日々、また失ったもの、亡くした人々を、町をおもうこころと映る。

掲出のうたには、

未送信箱に残れるメールなり「津波くるにげて」「逃げて!」「返事して!」
雪曇りの午後だつたのだひとびとの影ばかり陸に取り残されて
容れ物の欲しかりし日々水を灯油をガソリンを汲む大き器が

といった震災の日とその後の日々のうたを通過したのちに出会う。「津波くるにげて」が「逃げて!」「返事して!」に変わるほどに逼迫し、それなのに届かないメール。焦りと不安とどうしようもなさが「雪曇りの午後」の心を覆う。「影ばかり陸に取り残されて」なにもかもが海へ流されてしまった、その海を、そこに溶けゆく花火の光を追う。「大き器」とは、モノばかりではないだろう。抱えきれないものを溢れさせて日々をやりくりしたその歳月をおもう。静かで優しい力が人々を照らしているようだ。

あるいは、その光は、声を出すことのかなわない、海に眠れるあまたの命に降り注いでいるのかもしれない。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

最新トラックバック

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR