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1首鑑賞136/365

明晰なる頭脳こはれて弟はみづからがここに在るを知らざる
   橋本喜典『聖木立』

     *

「明晰なる頭脳」「こはれて」の率直が、対比(落差)をいっそう際立たせていて痛ましい。こういううたが、歌集のなかには点々とある。

絶望の一歩手前の施策にて赤ちやんポストかなしかりけり
玄関前に鉢を並べて植物を育てゐる人庭欲しからむ

たとえば1首目、赤ちゃんポストを「絶望の一歩手前の施策」と言い「かなしかりけり」と言う。2首目も「庭欲しからむ」のあまりにも直接的な言い方におどろく。

弟について言うときに、「明晰なる頭脳」とはなかなか言えない。実際にそうであっても、身内のことを紹介して述べるときには、もう少し婉曲的に語られるだろう。一方で、「こはれて」のほうも口に出しては言いづらい。こちらも身内であればこそ。いずれにしても「弟」であることがその表現を、より衝撃的なものにしている。その衝撃から、「みづからがここに在るを知らざる」というふうに具体的な状況が述べられていく。〈抽象→具体〉の形をとって、重ね刷りの版画のごとく、その姿があらわれてくる。読みながら、もうそれ以上言わないでくれ……というような気分になってくる。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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