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1首鑑賞121/365

まんまるの月を見上げて黙ってる引っ越しの日はもうすぐなのに
   佐藤廉「いつか溺れる日」『東北大短歌』第5号

     *

引っ越しの日がやってくればもうここにいたことも、この道も、暮らしも、なくなってしまうのに、そんなことまるでないかのように、今日のこの満月を見上げて黙っている。なめらかなことばのはこびがここちよい。「まんまるの」にある幼さは、幼さがもつ感情のようなものを引き連れてきてわたしを黙らせる。

この連作には

かちかちと星が鳴る夜 おもしろい転校生の家にふる雪
でもいつか溺れる パチ屋ばっかりの街で上手に僕は暮らして

といううたがあって、それぞれ印象深い。「転校生」を見るまなざしが、「引っ越し」するはずの自分には同じようには向かないし、「でもいつか溺れる」という予感にこもる愛着は、この「街」を離れてしまえば簡単にうすらいでしまう。掲出のうたは、これらのうたを通過した連作の末尾におかれている。

同じ作者の別のうたを引く。

だめだった会話を思い出しながらきらきら光る川を見にいく
もうだれもぶらさがらない雲梯がお昼休みにさびてゆくなり
最悪の夢から醒めた真夜中の手がピーナッツバターの匂い
   佐藤廉「slowdancinginthedark」『ぬばたま』第三号

やさしくてすこしさみしい、ささやかな感触とことばとが、一瞬つよく抜ける風のようにこころをとらえてくる。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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