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1首鑑賞120/365

やまなみに浮く雲見れば ああ、なつかし眉ゆたかなりし武川先生
   小島ゆかり『純白光』

     *

やまなみに浮く雲を見る眼差しは、そのまま遠くのほうを見ようとする眼差しである。「雲」から「眉」への連想はもちろん、地理的な「遠く」から時間的な「遠く」への移行もうかがわれてくる。その狭間、「ああ、なつかし」のさしはさみ方が絶妙で

・やまなみに浮く雲みればああ、なつかし眉ゆたかなりし武川先生
・やまなみに浮く雲みればああ、なつかし 眉ゆたかなりし武川先生
・やまなみに浮く雲みれば ああ、なつかし 眉ゆたかなりし武川先生

のいずれでもない。「見れば」のあとの空白には武川先生の姿へいたるまでの時間があり、また、武川先生の姿すなわち「ああ、なつかし」というふうに、次の接続には空白がほどこされていない。一読おどろいたが、じつに気分のよくあらわれた作品とおもう。

武川先生とは武川忠一のことだろう。この歌集には「短歌日記2012」という副題がついていて、武川忠一はその年の4月1日に亡くなっている。「7/1」の項、日記部分には「毎年恒例の、塩尻短歌大学の講座。」とある。塩尻では「全国短歌フォーラムin塩尻」というイベントがつづいているが、この最初期の選者のひとりに武川忠一の名前を見つけることができる。ひとつ短歌の風土を引き継ぐという感覚が、一首の背後にはうっすらとただよっているようだ。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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