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1首鑑賞81/365

さやうならといふ声聞こゆ里芋の畑のむかうに帽子はゆれて
   内藤明『斧と勾玉』

     *

今しがた別れたばかりの人であろうか、離れつつあって、「さようなら」と呼ぶ声がする。見れば、里芋の畑の向こうで、帽子を手にもって振っている人がいる。大きな声と大きな身振りがあらためてこちらに届く。向こうのほうで、すでに里芋ほどに小さくなったその人を、静かに見やる。こちらはどう応えたか。声を出したか会釈をしたか手を振ったか。それきりだろう。

「聞こゆ」「帽子はゆれて」であるから、まったく見知らぬ人をうたったのかもしれない。「さようなら」と言うからいっしゅん反応して見てみると、なにやら里芋の畑の向こうで帽子を振っている方がいる。むろん、私のほうを向いているわけではない。ほお、お別れの場面なんだな、と心がゆるむ。一瞬うつした視線をもとに戻し、わたしはまた歩き出す。あるいは窓の外にはずした視線を机上にもどす。情感ある風景だ。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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