FC2ブログ

1首鑑賞78/365

ねむるあなたの苗字をぼくの字で書いて再配達の書留をもらう
   山階基「風邪と音楽」『穀物』4号

     *

あなたの家に泊まって、朝、あなたがまだねむっている。自分だけ目覚めていて、なんとなく、そわそわする。玄関のチャイムが鳴る。あなたはねむっている。それで代わりに、再配達の書留を受け取りにいく。ここにサインしてください。いっしゅん、どうしよう、とおもう。とっさに、あなたの苗字を書く。それできっと大丈夫。

1首の場面はだいたいこういう感じだろう。ひとの家に泊まったとき、どうしても早く目が覚めてしまう、ことを思い出す。起き出してみてもかってがわからないので、おとなしく布団のなかでじっとする。「ねむるあなた」と「ぼく」のあいだには、ねている・おきている、のちがいだけでなく、この家の人・ちがう家の人、ということからくる、気分のちがいがあって、そこにノックなり、チャイムなりの音がひびいて、いっきに空間がはりつめる。

起こすか起こすまいか、わずかに考えただろうか。ねむっているし、そのままにしておこう、とおもって玄関へ行く。「書留」なので大事なもので、「再配達」なのでまた不在っていうのもなんかわるい気がする。そういう気持ちが「代わりに受け取る」という選択を後押しする。でも、「大事なもの」だからこそ、代わりに受け取っていいものか、という迷いもうまれる。受け取りのサインはもちろんあなたの苗字だけれど、その葛藤みたいなものが「ぼくの字で」という意識にはあらわれている。

もう1つ、「書留もらう」でなく「書留をもらう」となっているところにも注目した。玄関のドアのしまる音がきこえる。封筒をしっかりと手にもち、いま確かに受け取りました、と意識する「を」だろう。ひとつ場面が、鮮明に浮かんでくる。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

最新トラックバック

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR