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1首鑑賞74/365

妻と子の風呂浴ぶる音壁沿ひにのぼり来たりて窓より聞こゆ
   内藤明『海界の雲』

     *

かちっかちっとした文語定型や漢語の感じ、あるいはこまかく文節がはいるところなど、たとえば秋葉四郎を想起する。そういう1冊のなかではやや柔らかい印象の1首である。

1階に風呂があり、妻と子が入っている。それを2階の部屋で聞いているのだろう。開けた窓から声が入ってくる。それをぼんやりと聞いている。湯のにおい、石鹸のにおいも漂うか。一連冒頭に「秋の入り日」とあるので、季節を秋とおもって読んでみる。じきに冬が来て、窓は閉ざされてしまうだろう。妻と子が一緒に風呂に入ることもまた、あるひとときのことである。

ひとつ家に居ながら妻や子の声を窓から取り入れて聞く、というのが現実にして奇妙でもある。そのことをもうひとつ踏み込んで、「壁沿ひにのぼり来たりて」と描写する。声そのものが動力をもって這い上がってくるような生々しさがある。実際には波がとどくだけなのだが、そこに意思あるごとくという感じがする。それに応えるでもなく、なんとなく聞いている。湯気のような声に、耳を湿らせながら。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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