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1首鑑賞60/365

とろろ飯(めし)はあるがとろろ蕎麦はないといふ立ち喰ひそば屋にざる蕎麦を食ふ
   内藤明『薄明の窓』

     *

「とろろ飯」ができてなんで「とろろ蕎麦」ができないんだ、という言い分はわかる。たとえメニューになくとも、同じ材料なんだからできるでしょう、というわけだ。もちろんその分のお金は払う。オムレツがあるんだったら卵焼きも……という場合は技術的な問題がありそうだが、のせるだけの「とろろ」となればいくらか分がある。

一方で、お店の側の言い分も事情もわかる。なじみの店ならば融通がきくこともあるだろうが、一見の店やチェーン店ではなかなかそうはいかない。だからこのうたは、「とろろ飯はあるがとろろ蕎麦はない」ということを責めているというふうでは、必ずしもない。結局食べたものが「とろろ」のない「ざる蕎麦」であるから、いささか抗議の気持ちはあったのかもしれない。それだったら、と、別のメニューにする選択肢もあるのだから。なんだか当てつけのようにも見える。けれども、1首のなかではそのあたりの葛藤の詳細は語られない。

 とろろ蕎麦ってできますか
 いや、うちではやってませんね
 あ、わかりました。じゃあ、ざる蕎麦ひとつ
 はいよー

くらいでおわったか。あるいは、

 (とろろ蕎麦が食べたいな。あれ、ない。とろろ飯はあるのにな。うーん、じゃあざる蕎麦だな。)
  すいませーん、ざる蕎麦1つ
 はいよー

と、葛藤は心の中で済ましたか。あるいは、

 すいません、とろろ蕎麦できますか
 いや、ちょっとできないですね
 でも、とろろ飯はあるんでしょ。そのとろろをほら、ちょっとこっちにかけてくれたらいいから
 いや、そう言われましても……
 じゃあわかった、とろろ飯とざる蕎麦を1つずつ。とろろ飯は、ごはんととろろを別で
 はあ

と、こういう形もあるかもしれない。まあでも、立ち喰い蕎麦のお店だからなあ。無理がきかないのは承知で、つまりそれほど葛藤なくざる蕎麦を注文したのだろうとおもう。食券をまず買って、という仕組みだったらなおさら。お店の人とのやり取りもほとんどなかったのではないか。「立ち喰ひそば屋」というのが、1首の要になっている。

とろろ、とろろ、蕎麦、そば、蕎麦の反復もたのしい。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎『温泉』ご購入はこちらから。現代短歌社のオンラインショップです。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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