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1首鑑賞36/365

花水木の道があれより長くても短くても愛を告げられなかった
   吉川宏志『青蟬』

     *

このうたには、どうやら2つの読みがあるらしい、ということを、時々思い出す。何かを読んで、あるいは誰かと話しているうちに。

ひとつは、「あの長さだったから愛を告げられた」という読み。もうひとつは、「どんな長さであっても愛を告げられなかっただろう」というものだ。

花水木の道がある。そこを並んで歩く。もしあれより短かったら、言い出す前にたとえば曲がり角が来て、それきりだったかもしれない。もしあれより長かったら、そもそも愛を告げようとはしなかったかもしれない。タイミングというのは、愛の告白に限らずだいたいがこんな感じだ。その共通の感覚を呼び覚ましてくれるような1首である。

ところが、こうも読める。結局愛を告げられなかったそのことが、こころの底に残っていて、何かの拍子に浮き上がってくる。もしあの道があれより長かったとしても、言おう言おうと思うばかりで言えなかっただろうなあ、と。あるいは短かったら短かったらで、雰囲気ができるまでに終わってしまっただろう、勇気が出せないまま、散会となっただろうなあ、と。

わたしは初めて読んだときからずっと前者の読みをしていたけれど、同じくらいごく当然に後者の読みをしている人もいて、だからこの1首は、読者の体験をもろに刺激するうたなのだろうなあ、とおもう。
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プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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