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やまなみ(2020年7月号)十首選

明かり消し眠り待つ間に書きとむる未だ手探りのあはれわが歌
   大我幸藏

歌声のよみがへるこそ哀しけれふたたびは聴けずふたたびは会へず
   長島洋子

さよならを言葉に出さず言いしことかなしみはすぐ鼻腔より来る
   桜又栄一

住み捨てし家の名入りの鬼瓦に睨まれてをり寒き雨降る
   久田恒子

まなうらに母の日傘が動き出すみどりの中の古きあの径
   青木佳代子

麦畑折りたたまれて焼かれたりはつ夏は次のひかりに変わる
   氏家長子

この春も川辺に華やぐ桐のはな亡きひとの歌で知りし花の名
   山本博幸

トヨタの、ビールの、タバコの、太陽の、今から永久にコロナはウイルス
   相良信夫

ひとり分空けて座りし城址の石のベンチに梅ほころびぬ
   古賀信之

見に来てはいけませんよと伐られたる見頃むかえる黒木の藤が
   加藤かつこ


(順不同)
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忍音

後ろより聞こえし声をふりむけばいまふたたびを鳴くほととぎす

ほととぎす今年はじめて聞く声は六月十七日宵まだあさき

二たび三たび鳴きたるのちをほととぎす息切れのごとき声もらしつぐ

梅雨のまのくもりに鳴きて澄みとほる笛のごとしもほととぎす鳴く

いづこより鳴きつるものかつゆの雨太くなるときその音に消ゆ


(2020/06/18 17:35 noteより転載)

風のかよひ

そのわきの冷や奴うすし遅い昼食はむとし鯖の塩焼きとれば

豚汁と冷や奴のみのおかずの日寮の暮らしにありきいとしゑ

冷や奴で飯が食へるかそんなことおもはぬでなし今におもへば

ざらつきのある葉と見えてよぎるとき向日葵をしるす札並びをり

わづかにも手をかけてよぢのぼるごとし緑の網の若きあさがほ

たとへば蛍、とぢこめて手を合はすとき指はとがりぬ苞の形に

ひらくすなはちとびかふ蛍そのやうに花咲かせゆくアガパンサスは

桟橋の間だけでけつこうです 言はれて五〇円のマスクを買ひぬ

白鳥ボート波にまかせて休むとき風の通ひのひとときに会ふ

車うごかすごとく慣れたる手つきにてハンドルまはすは眩かりけり


(2020/06/16 18:34 noteより転載)

紫をさす

職場よりもどる夜道にろくろ首伸びゆくさまの花茎うかびぬ

伸びのさかりの花茎の先に点りゐる苞をぬらしてはじまる梅雨は

マンションのたもとを過る通勤のはじめとをはり花まだ咲かず

ろくろ首の噺の首を長くしてアガパンサスの花咲くを待つ

なかばまでひらける苞のうちがはに寄りあふちさき莟は見たり

ひらきつつある苞のなか咲かむとし莟つどふは楽団のごと

オルゴールにおどる小人の夜の楽しづかにひらけ花のつぼみは

養子にこないか、そんな話のひとつふたつ錆びながらにほふ雨が六月

松下の姓をつかひて暮らしゐしみじかき日々が戸籍にのこる

ひらきたる花のひとつが薄闇にしづくのごとき紫をさす


(2020/06/13 20:30 noteより転載)

今年のつぼみ

アガパンサスの去年の骸の居残れるひとところあり路の隔てに  去年=こぞ

ひらきたる花の形のそのままにひととせばかりを干涸びてをり

あたらしく莟つけたるアガパンサス伸びさかりたり六月五日


(2020/06/07 09:29 noteより転載)

プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎『温泉』ご購入はこちらから。現代短歌社のオンラインショップです。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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