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1首鑑賞120/365

やまなみに浮く雲見れば ああ、なつかし眉ゆたかなりし武川先生
   小島ゆかり『純白光』

     *

やまなみに浮く雲を見る眼差しは、そのまま遠くのほうを見ようとする眼差しである。「雲」から「眉」への連想はもちろん、地理的な「遠く」から時間的な「遠く」への移行もうかがわれてくる。その狭間、「ああ、なつかし」のさしはさみ方が絶妙で

・やまなみに浮く雲みればああ、なつかし眉ゆたかなりし武川先生
・やまなみに浮く雲みればああ、なつかし 眉ゆたかなりし武川先生
・やまなみに浮く雲みれば ああ、なつかし 眉ゆたかなりし武川先生

のいずれでもない。「見れば」のあとの空白には武川先生の姿へいたるまでの時間があり、また、武川先生の姿すなわち「ああ、なつかし」というふうに、次の接続には空白がほどこされていない。一読おどろいたが、じつに気分のよくあらわれた作品とおもう。

武川先生とは武川忠一のことだろう。この歌集には「短歌日記2012」という副題がついていて、武川忠一はその年の4月1日に亡くなっている。「7/1」の項、日記部分には「毎年恒例の、塩尻短歌大学の講座。」とある。塩尻では「全国短歌フォーラムin塩尻」というイベントがつづいているが、この最初期の選者のひとりに武川忠一の名前を見つけることができる。ひとつ短歌の風土を引き継ぐという感覚が、一首の背後にはうっすらとただよっているようだ。
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短歌日記120/365

朝は9時半に起床。そのまま出勤。

     *

〈川越〉といふ焼酎を飲みあかし語りあかして朝ごろ寝ねつ

1首鑑賞119/365

こころゆくばかり自分を楽しめとグリンピースは遠くへ跳べり
   小島ゆかり『純白光』

     *

豆ご飯を食べている場面だ。グリンピースひとつぶ摘もうとしてぴっ、と跳んでしまった。だいたいそんなシーンを想像する。べつに「豆ご飯」の部分は「シュウマイ」(頭にグリンピースが載っている)でも「ハンバーグ」(付け合せのミックスベジタブル)でもいいのだが、ともかく箸で摘もうとして跳んでいってしまったグリンピースを思い浮かべる。その跳びっぷり、身軽な感じが「こころゆくばかり自分を楽しめ」という気分につながってくる。わたしが摘みそこねたのではなく、グリンピースが意思をもって跳んだようである。

短歌日記119/365

いつぶりか、歌会に参加する。すごい雨だ。

     *

旧かなをうるさくおもふ日もあつて雨已めばしろしつつじの小径

1首鑑賞118/365

早さではなくて想いがほしいのだが 欲とは初夏の水に似ている
   染野太朗『人魚』

     *

早さではなくて想いがほしいのだが、という時に、「早さ」とは「想い」の形である。けれども、「想い」を表すところの「早さ」ではなく、じかに、「想い」がほしいと言う。そういう迂遠はいらない、直接「想い」をくれ、と言っている。どんな「想い」も直接にはとどかないだろうが、「早さ」よりはいくぶん直接に近いたとえば「ことば」で、伝えてくれ、ということかもしれない。「早さ」は態度だが、そうではなくてもっと率直に、「ことば」で欲しい。あるいはもっと、直接的な態度もあるだろう。いずれにしても、「想い」があるならば、いかにもわたしにわかるような形で伝えて欲しい。「早さ」ではわたしに遠い。そういう「欲」を、上の句から考える。

ほしい、ほしいのだが、とうたはつづく。この「だが」は、そうはいかないと嘆くためのものではない。のだが……、この「欲しい」という気持ちは「初夏の水に似ている」と、すこし位置をずらしたところから述べるための「だが」である。いましがた「早さではなくて想いがほしい」と言った自分のほうを振り向いて、「欲とは初夏の水に似ている」と語りかける主体がいる。そのずらしの印として、「だが」と一字空けが差し挟まれている。

初夏の水、というものを考えるときに、たとえば春の水や夏の水を想像してみる。手に触れるものとしての水、喉をとおすものとしての水、川の水、海の水を思ってみる。まだ手には冷たい水か、喉をとおしてここちよい水か、そういうすごく曖昧なものである。そのときそのときで簡単にかわってしまう。自分の「欲」って、それは確かなものであるはずなのに、あんまりあてにならないなあ、とおもう。振り向いて自らに発したこのことばが、「欲」をいっそう強めることにもなりそうだし、一方で、みずからを諌めることにもなりそうだ。

プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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