FC2ブログ

月だよ、こっち

暗くした視聴覚室のカーテンに穴があいてるみたいな月だよ、こっち
   千種創一

     *

「短歌研究」2020年4月号、「この林を抜けると花の名を一つ覚えている」より。

視聴覚室のカーテンはまっくらになるような素材で、そこにあいた穴からは、もれてはいけない光がくっきりと差し込む。暗闇のなかに、月がぽっちり灯る。

暗くした/視聴覚室の/カーテンに/穴があいてる/みたいな月だ

まで読んで読み終わらずに、すこし早口で、「月だよ、こっち」まで読む。呼びかけに、視線を動かされる。比喩をはなれてじっさいの月に、光景がすりかわるような感触がある。
スポンサーサイト



2019年1首鑑賞索引


相田奈緒 335
阿木津英 69
阿部圭吾 286
有川知津子 86
阿波野巧也 365
飯田彩乃 48 49
生田亜々子 9
池田毅 10
石井大成 42 83 91 329 330 331
伊藤一彦 307 308 309
井村拓哉 58
岩田正 19 146 147 148 150 153 154 155 173 174
上野春子 279 280
内山晶太 2 46 287
宇都宮敦 175 193 194 195 196 197 198 199 200
大井学 164 283
大口玲子 257 285
大島史洋 56
大松達知 156
大森静佳 8 127
岡井隆 40
奥村晃作 30


柿本人麻呂 244
笠木拓 323
梶原さい子 75 93 131 160 191 192
狩峰隆希 6 325 326
菊竹胡乃美 92
菊池剣 300
北原白秋 55
キム・英子・ヨンジャ 62 63
鯨井可菜子 37 38 306
窪田空穂 351 352 353 354 355 356 357
栗木京子 226 227 228 230 240 241 242 258 261 264 274 276
黒川鮪 16 17
黒瀬珂瀾 162
桑原正紀 340 341 347
小池光 3 313 314 315 316 336
小島ゆかり 24 111 112 113 115 116 119 120 122 123 124 128 129 130 151 215 216 217 218 219 220 221 222 223
古賀信之 298
後藤由紀恵 57
近藤寿美子 236 260


斎藤茂吉 168 169 170 171 172
齋藤芳生 225 289
西藤定 290
佐伯裕子 15 97 327 328
桜川冴子 54 237 238 239 259
笹川諒 338
笹公人 333
佐佐木定綱 324
佐佐木幸綱 53 158 349 350
佐藤秀 359 360
佐藤廉 121
佐波洋子 320
志垣澄幸 90
志貴皇子 245
篠弘 152
島田修三 332
島田幸典 167 284
白水ま衣 12
曽川文昭 89
染野太朗 44 45 118 163


高野公彦 281
高山由樹子 14
武田穂佳 125 231 334 337
竹中優子 82
立花開 363
田中薫 278
玉井清弘 140
玉城徹 31
田村元 35 51 304
俵万智 39
辻聡之 80 295
寺井達哉 47
鳥居 50


内藤明 60 61 72 73 74 81
永井祐 1 305 321
中島行矢 64 65 66
永田紅 11 117 183 255 275
中皇命 243
長友重樹 59 358
永良えり子 319
野田光介 299 362
野中ヨシ子 342 343
野村まさこ 224


拝田啓佑 4
橋爪志保 34 77
橋本喜典 114 132 133 134 135 136 137 138 139 141 142 143 144
長谷川銀作 18 20 21 22 27 28 29 32 43
花山周子 85 88 94 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109
花山多佳子 310 311 312 317 318
馬場あき子 41 159 165 166 176 177 178 179 180 181 182 254 268 269 270 271 272 348
濱田友郎 76
濱松哲朗 79 84
東直子 26 294
平山繁美 273
広坂早苗 322
藤井征子 208 209
藤原龍一郎 7
二三川練 210 211 212 213
法橋ひらく 339


前田康子 52 145
間瀬敬 67 68 70
松野志保 95
松村正直 5
松村由利子 293
真中朋久 361
水沼朔太郎 364
睦月都 23
森ひな子 232 233 234 235
森本直樹 13 292 296 297 301 302 303


八重樫拓也 126
安井高志 71 87 110 185 186 187 188 189 190
藪内亮輔 96 184 201 202 203 204 205 206 207 256
山川藍 282
山木礼子 157 288
山階基 78 149 246 247 248 249 250 251 252
山田航 291
山本夏子 277
吉川宏志 36 161
米川千嘉子 25 214 229 253 262 263 265 266 267




渡辺松男 33 344 345 346

1首鑑賞365/365

さびしさはしかたがないということの中にあるいてゆく烏骨鶏
   阿波野巧也「緑のベンチと三匹の犬

     *

連作の冒頭

父親とラッパの写真 父親は若くなりラッパを吹いている
プリンぐちゃぐちゃにぐちゃぐちゃにかき混ぜる 桜の過去のきみに会いたい

という2首が並んでその次のうたである。「父親」と「きみ」が、なんとなく想定としておもわれてくる。

いったんは、それを抜きにして読む。「さびしさはしかたがない」。さびしいという気持ちはどうしようもない。遣り場がない。そういうものとおもうしかない。そういうことの中に、眼前を烏骨鶏(うこっけい)があるいてゆく。烏=黒であり、皮膚、骨、内臓まで黒色のニワトリである。もっと抽象的な光景とおもってもいいが、前半の抽象からの流れるような展開をおもえば、この烏骨鶏は現在のものとおもわれる。

阿波野さんには上の句と下の句を〈の〉でつないで印象的なうたが多くある。

エロ漫画はじめて買った夏の日の、感情のどこまでがぼくだろう?
泣きぼくろみたいにひかる夕星(ゆうずつ)の、幼いころのぼくへの憎悪
洗濯が終わってひりひりする指の、みんないいひとだと思いたい
   「ジオラマ」「塔」2014.7

音楽にあふれて歩む鴨川の、ようやく気持ちが追いついてくる
   「cube」「京大短歌」20号

ストローを刺してあふれるヤクルトの、そうだよな怒りはいつも遅れて
コミックを開けばそこにある街のどうしてもぼくなんだねぼくは
   「シティトライアル」「miniature #3」

手元のメモから、時系列も連作における順序も気にせず引いた。といっても発表からいくぶん時間の経ったうたではある。具体と抽象、景と情をとりむすぶような〈の〉である。〈の〉で展開を保留しながら、具体的な手触りのあるものを引きずりおろしてきたり、あるいは〈の〉を踏み台にしてもっと遠くへいったりする。

掲出の1首は、「の」が「中に」かかっているので、ここに挙げた歌群の〈の〉とはまたちがった感触をもつものである。「の」が「の中に」と引き延ばされて、従来の〈の〉にあった負荷が分散されるというか、より自然に「烏骨鶏」の姿があらわれてくるようだ。そして「さびしさはしかたがない」という心持ちも、握られたまま心を離れないでいる。二物はぶつかりあわず、また離れてゆくことなく、こころと視野の入り交じるところを動き続ける。そしてしだいに遠ざかる。感情というものの感触を、たしかにつかみなおすような1首だ。

1首鑑賞364/365

信号が点滅したから走り出す赤になったので歩き出す
   水沼朔太郎「ごしゅうぎ」   

     *

水沼さんの「(たぶん)(ひとりで)週刊短歌」という企画の第4回より。

わたろうと歩いていて横断歩道が見えてくる。ちょっと先に信号があって、「点滅したから走り出す」。赤にかわれば渡れなくなってしまうからである。間に合うか、間に合わないか。間に合わなかった。「赤になったので歩き出す」。

身に覚えのある一場面である。「走り出す」→「猛ダッシュする」というのが順接だろうか。しかし「赤」になったら円が一周するというか、もうどれだけ走ってもダメなのである。すぐそこが、瞬間、永遠に遠くなる。変な感じだ。三句切れで対句。単調な文体が、意識をなぞるようでもあり、ひそむ不思議をにじませるようでもある。

「から」と「ので」の差にもおもいが至る。好みのせかいなのかもしれないが、「から」には「おのずから」という気分があるのに対し、「ので」のほうには「論理を呑み込む」ような感触がある。「赤になった」の字足らずが「つばをのみこむ」時間を生んで、そこから「ので」が捻り出されてくるような気持ちになる。しかし句跨がりであることが、初読ではまったく気にならなかった。対句の力学によるものか。このあたりも、不思議がにじむようなおもいで読んだところである。

1首鑑賞363/365

遠くの馬や飛行機雲に手を振りぬ人間はいつも柵のそとがわ
   立花開「外側にいる寂しき自由」

     *

角川「短歌」2020年1月号より。一連をとおして、線の太いうたが並ぶ。

ふたつ並べられた「馬」と「飛行機雲」には、しかし「遠さ」にいくぶん違いがある。柵の向こうの馬にはもちろん手が届かないが、飛行機雲にはもっともっと手が届かない。「馬」を通して「飛行機雲」がわかる、「飛行機雲」との間に置いて「馬」の「遠さ」がわかる。たんに「遠く」つながりで並列されたのではない、この構図に思考を促される。

柵のそとがわ、というのも眼前の柵がまずあって、そこからぐわっと広げられて、いちだん抽象的な「柵」である。「飛行機雲」を「人間」と隔てる「柵」とはなんだろうか。「柵」の内側の自由、というのはしばしば不自由のこととして語られるが、「柵」は内を囲いながら、同時に外を遮断するものでもある。「柵のそとがわ」の自由・不自由ということを考える。

手を振る、というのは「柵のそとがわ」にいてなにもできない「人間」が、自己慰撫のためにあるいはやるのかもしれない。「柵」をつくったのはそもそも人間なのである。

プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

最新トラックバック

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR