FC2ブログ

1首鑑賞97/365

太極拳に通える友と擦れちがう春なれば白き花咲く道に
   佐伯裕子『感傷生活』

     *

このうたの違和感はまず「春なれば」にあった。白い花が咲く道で友とすれ違う、そういう一場面。そうすると「太極拳に通える」という情報も、ちょっと変に思えてくる。

太極拳に通っている友とすれ違うのは、これが初めてではなかったのだろうとおもう。この道ですれ違う友がいくらかいて、その一人、という感じだ。この友は太極拳に通っているひと。前にすれ違ったのはいつだったか。いまは春だから、白い花が咲いている。

太極拳で画像検索してみると、やっぱりというべきか、白いユニフォームを来ている。このユニフォームの白と、道に咲く「白き花」とが結びつく。また、「すれ違う」よりも「擦れちがう」の「擦れ」にピントが合わさる。このユニフォームは、着たまま歩いているのかもしれない。もしそうだとすれば、初めてすれ違ったその印象的な場面をえがいた1首となるか。向こうから歩いてくる友の姿の白が、おのずから白き花の白にとけこむまでの、不思議なひとときを捉えた1首である。
スポンサーサイト

1首鑑賞96/365

絶望があかるさを産み落とすまでわれ海蛇となり珊瑚咬む
   藪内亮輔『海蛇と珊瑚』

     *

絶望があかるさへ転ずるわけではない。絶望が力を込めて、あかるさを産み落とすのだ。絶望そのものもいずれは消滅するのかもしれない。けれどもそれそのものが、変化し、あかるさという形を得るわけではない。絶望のなかから生まれたあかるさも、やがては絶望へ変わっていく。「珊瑚咬む」の力み、その力ゆえに生まれるあかるさのことをおもう。咬むしかない、いまの絶望も。

1首鑑賞95/365

光年という距離を知りそれさえも永遠にほど遠いと知った
   松野志保「ジュブナイル」『OCTO』

     *

光年というのはざっくり言えば1年間に光が進む距離であって、それはおよそ9.5兆キロメートルという。果てしない距離で、想像もつかないのだが、それでさえ、「永遠」というものに比べれば、ごくわずかなものである。「無量大数」と「無限」のあいだにある縮めようのない圧倒的な差を見るようだ。「永遠」や「無限」というのは、数ではなくて状態である。「光年」や「無量大数」というのをいくら積み重ねても「永遠」や「無限」には至れない。はるかまぶしいところにある。けれども、「光年」を知ることによって、それがいかに遠いか、というところへ近づくことができる。「光年」を知ることが、「永遠」への扉になっている。

1首鑑賞94/365

春になり物差しもわずか伸びていん本にあて本の束(つか)を測りぬ
   花山周子『林立』

     *

木製あるいは竹製の物差しだろうか。冬のあいだ縮こまっていたのが気温の上昇とともにわずかにも伸びてくる。襖などは冬ちぢこまって隙間風を通すが、物差しほどのサイズであれば、実際にたしかに伸びている、とわかるほどには伸び縮みがあるわけではないかもしれない。「いん」という助動詞にはそういう意味で推量の気持ちがありながら、一方で、伸びているといいなあ、という希望のようなものも籠っているようにおもう。花が咲き、葉がひらきしていく春の、その伸びゆくひらきゆく植物との相似をおもえばのことである。「本にあて」「本の束を測」る、というリフレインのなかには、その所作のはずむような気分を感じることができる。

1首鑑賞93/365

校庭に地割れは伸びて雪の飛ぶ日暮れを誰も立ち尽くしをり
   梶原さい子『リアス/椿』

     *

校庭に地割れが起こるほどの大きな地震。地割れは「伸びて」という動詞が、そのもの凄さを伝えてくる。いままさに眼前で、音を立てながらばりばりと大地がひび割れていくさまが思い浮かぶ。おそろしい。身震いする。立ち尽くすよりほかに、なにもできない。雪の飛ぶ日暮れである。どんどん気温が低くなっていく。暗くなっていく。余震がくる。状況がわからない。心身ともに、疲れきってくる。どうすることもできず呆然とする。という、進行しつつある状況を、「伸びて」という動詞が、ここでもまた、想起させる。

このうたの次に、

「釜石に六メートルの津波来る」そののちをもう聴こえぬ知らせ

とある。東日本大震災である。津波が来るという報せ、「六メートル」という数。そののちどうなったのか、続報がない。津波は来たのか、来ていないのか、来たとしてどんな状況なのか。猛烈な警報の声、音だけが耳に残っていていまなお不安を掻き立てる。「もう聴こえぬ」が、いくつものしかかってきてもうずっと、「誰も」を「立ち尽く」させる。

プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。歌集に『温泉』(2018年)がある。「やまなみ」所属。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はkyushu.sc.m.yamasho@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

最新トラックバック

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR