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もっとも心に残ったこの連作2020

心に残ったこの連作2020各部門から5篇ずつ、もっとも心に残ったものを選びました。選ぶ段階で、原則は今年発表の作品を対象としました。ただし、今年発表された(これからされる)ものであっても、これを書いている時点で読みえていないものは対象としていません。

今年は過去2年とちがって毎月すこしずつ読んで選んでいきました。そういったことが選に影響しているかもしれません。また、3年間やるなかで、ずいぶん偏りもはっきりしてきたかとおもいます。

たとえばひとりの作者について、その作者の美質をいっそう強くおもうこともあれば、あらたな一面におどろくこともありました。迷ったときには、そういうごく個人的な心のゆさぶりを大事にしました。

当然ながらいまのわたしの〈読み〉はいまだけのものであるとおもいつつ、以下に5篇ずつ列挙します。順不同です。ただし、ひとりの作者につきひとつの作品に限ることとしました。また、各誌にまたがって掲載されました斉藤斎藤さんの「エッセンシャル・ワーク」につきましては、ぜひ、ひとつのまとまった形であらためて読んでみたいとおもい、以下には選出しませんでした。

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(1)10首未満の連作
「乳首」7首(工藤吉生、「短歌研究」5月号)
「ツインソウル」7首(武田穂佳、「短歌研究」5月号)
「投稿」7首(平岡直子、「短歌研究」5月号)
「心」5首(佐伯裕子、「短歌往来」9月号)
「学校」5首(岩内敏行、「短歌往来」9月号)

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(2)10首以上20首未満の連作
「みなそこ、水面」15首(吉川宏志、「うた新聞」4月号)
「稼ぎがよい」12首(染野太朗、角川「短歌」4月号)
「桃いろやさしき」10首(前田康子、角川「短歌」5月号)
「オンライン授業」13首(永田紅、「短歌往来」6月号)
「得意げ」12首(黒﨑聡美、「うた新聞」8月号)

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(3)20首以上30首未満の連作
「夢のロープ」20首(大森静佳、「短歌研究」1月号)
「自由」28首(大口玲子、角川「短歌」4月号)
「冬のいなづま」28首(篠弘、角川「短歌」5月号)
「セミハード」20首(田村元、「歌壇」6月号)
「tokyo2020」20首(鈴木ちはね、「ねむらない樹」vol.5、2020.8)

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(4)30首以上の連作
「スクラム」30首(佐佐木幸綱、「歌壇」1月号)
「初の子年を」33首(池田はるみ、「短歌往来」2月号)
「朝」30首(山木礼子、「短歌研究」4月号)
「近づく夏」30首(小池光、「短歌研究」7月号)
「五月九日から六月七日まで」30首(花山周子、「歌壇」8月号)

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この取り組みを3年間やりましたが、ここでひと区切りとしたいとおもいます。おつきあいいただき、ありがとうございました。
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心に残ったこの連作2020

5つの総合誌を中心に、この1年間で印象深かった連作、繰り返し読みたいとおもった連作、いまだによくわかっていない連作などなど、心に残った連作を列挙します。文体や題材や措辞の好き嫌いや、現在の興味関心に左右されている面がおおいにあると思いますので、あらかじめご了承ください。総合誌以外について、たとえば結社誌、そのほかの短歌会の機関誌、また新聞等については、読み得たものについては、できるかぎり対象にしています。去年一昨年につづく取り組みです。

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(1)10首未満の連作
「二つの神」7首(米川千嘉子、「短歌往来」1月号)
「ひかり」7首(池田はるみ、角川「短歌」1月号)
「ポリス」7首(水原紫苑、角川「短歌」1月号)
「冬の窓」7首(加藤治郎、角川「短歌」1月号)
「ローリエ」5首(大平千賀、「うた新聞」2月号)
「唄とノルマ」7首(岡井隆、「未来」3月号)
「炭酸泉」5首(田村元、「うた新聞」3月号)
「甲乙」7首(山中律雄、角川「短歌」3月号)
「一歳児」8首(金澤和剛、「短歌往来」4月号)
「すすり泣き」7首(大島史洋、「短歌研究」5月号)
「乳首」7首(工藤吉生、「短歌研究」5月号)
「ダウラギリ」7首(小池光、「短歌研究」5月号)
「早送り」7首(小島なお、「短歌研究」5月号)
「一茶の孤独」7首(佐佐木幸綱、「短歌研究」5月号)
「水菜の束」7首(さいとうなおこ、「短歌研究」5月号)
「忘れたいのに」7首(島田修三、「短歌研究」5月号)
「味噌を作る」7首(染野太朗、「短歌研究」5月号)
「ツインソウル」7首(武田穂佳、「短歌研究」5月号)
「どんがら」7首(野田光介、「短歌研究」5月号)
「天狗笑ひ」7首(花山多佳子、「短歌研究」5月号)
「うちにとっては」7首(花山周子、「短歌研究」5月号)
「春猫」7首(日高堯子、「短歌研究」5月号)
「投稿」7首(平岡直子、「短歌研究」5月号)
「はずしに」7首(藤島秀憲、「短歌研究」5月号)
「三月一日」7首(本田一弘、「短歌研究」5月号)
「伝染(うつ)る」7首(前田康子、「短歌研究」5月号)
「いのち」5首(伊藤一彦、「現代短歌新聞」6月号)
「あやめ」7首(岸並千珠子、角川「短歌」7月号)
「大夕焼け」5首(古谷円、「現代短歌新聞」8月号)
「ビール券」5首(田村元、「現代短歌新聞」8月号)
「石」3首(志野暁子、「うた新聞」8月号)
「心」5首(佐伯裕子、「短歌往来」9月号)
「声音」5首(前田康子、「短歌往来」9月号)
「学校」5首(岩内敏行、「短歌往来」9月号)
「豊作」7首(小林信也、「歌壇」10月号)

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(2)10首以上20首未満の連作
「グラム」10首(真野少、「八雁」2018年1月号)
「旅日記拾遺」10首(牛尾今日子、「八雁」2019年11月号)
「黒蜜」12首(松井恵子、「COCOON」7号、2018.3)
「蟹剥き」12首(小島なお、「COCOON」3号、2017.3)
「お別れを待つ」12首(早川晃央、「COCOON」15号、2020.3)
「みなそこ、水面」15首(吉川宏志、「うた新聞」4月号)
「白いきのこ」12首(野田光介、「現代短歌新聞」4月号)
「稼ぎがよい」12首(染野太朗、角川「短歌」4月号)
「毛茸」10首(大松達知、角川「短歌」4月号)
「ひとも街もこゑも」10首(松本典子、「短歌往来」4月号)
「弟よ」15首(小山加悦子、「玉ゆら」vol.68、2020.4)
「大試験」10首(棚木恒寿、「短歌往来」5月号)
「灯下を帰る」10首(屋良健一郎、「短歌往来」5月号)
「桃いろやさしき」10首(前田康子、角川「短歌」5月号)
「恩寵と息吹(二)」10首(漆原涼、「未来」6月号)
「虹始見」12首(さいとうなおこ、「現代短歌新聞」6月号)
「オンライン授業」13首(永田紅、「短歌往来」6月号)
「うれしいこぶた」15首(松村正直、「パンの耳」第3号、2020.6)
「鶯色」13首(田村元、「短歌往来」8月号)
「王さまと政治家」10首(睦月都、角川「短歌」8月号)
「得意げ」12首(黒﨑聡美、「うた新聞」8月号)
「Tokyo Blue」12首(大松達知、「現代短歌」9月号)
「Zoomと天窓」12首(永田紅、「現代短歌」9月号)
「飴玉」10首(竹中優子、角川「短歌」11月号)

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(3)20首以上30首未満の連作
「不眠」20首(米川千嘉子、「短歌研究」1月号)
「夢のロープ」20首(大森静佳、「短歌研究」1月号)
「餅と池」21首(日高堯子、「短歌往来」1月号)
「自由」28首(大口玲子、角川「短歌」4月号)
「汗のたなぞこ」20首(篠弘、「短歌研究」4月号)
「長生き 二〇二〇年一月〜二月」20首(花山周子、「短歌研究」4月号)
「ポトスライム」20首(田村元、「短歌研究」4月号)
「白の跳躍」20首(北村早紀、「遠泳」、2019.1)
「丘」20首(小島ゆかり、「歌壇」5月号)
「正常 二〇一九年十月〜十二月」24首(花山周子、「現代短歌」5月号)
「ことしの春」28首(小池光、角川「短歌」5月号)
「冬のいなづま」28首(篠弘、角川「短歌」5月号)
「セミハード」20首(田村元、「歌壇」6月号)
「花火と豆菓子」20首(鯨井可菜子、「短歌研究」6月号)
「『佐信書簡』(佐佐木信綱・新村出書簡集)」21首(佐佐木幸綱、「短歌往来」7月号)
「エッセンシャル・ワーク(2)」20首(斉藤斎藤、「歌壇」8月号)
「tokyo2020」20首(鈴木ちはね、「ねむらない樹」vol.5、2020.8)
「生くるとは」20首(篠弘、「歌壇」9月号)
「風の伯爵夫人」20首(青木昭子、「歌壇」9月号)
「天道虫」20首(小池光、「歌壇」12月号)

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(4)30首以上の連作
「スクラム」30首(佐佐木幸綱、「歌壇」1月号)
「記憶」30首(山木礼子、「短歌研究」1月号)
「初の子年を」33首(池田はるみ、「短歌往来」2月号)
「朝」30首(山木礼子、「短歌研究」4月号)
「碑の蟻」30首(島田幸典、「短歌研究」4月号)
「その時代のことはあまり知らない」30首(平出奔、「のど笛」、2020.1)
「息の根を呼びとめて」30首(橋爪志保、「のど笛」、2020.1)
「彼方への記憶」33首(恒成美代子、「短歌往来」6月号)
「エッセンシャル・ワーク」30首(斉藤斎藤、「短歌研究」6月号)
「常なき日々の——多摩丘陵2020年春」30首(三枝昻之、角川「短歌」7月号)
「せーので」30首(山階基、「短歌研究」7月号)
「近づく夏」30首(小池光、「短歌研究」7月号)
「煙の生活」30首(武田穂佳、「短歌研究」7月号)
「五月九日から六月七日まで」30首(花山周子、「歌壇」8月号)
「エッセンシャル・ワーク(3)」30首(斉藤斎藤、「短歌研究」9月号)

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列挙した作品をこれから読み返して、(1)〜(4)それぞれから5篇ずつ、もっとも心に残った連作2020を選びたいと思います(そのさい、ここには挙げていないものを候補に加えることもあります)。

10月〜12月の連作

2020年10月〜12月の諸誌紙から、気になる連作をピックアップします。(順不同)

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小林信也「豊作」7首(「歌壇」10月号)
ささやかな一連だが、さりげなさや、やさしさのようなものが胸にせまってきた。〈妻連れて車の点検に行かむとす些細な外出も今は楽しき〉、厳しい現状認識や批評ではなく、このようなあり方がかえってめずらしくうつる。〈九十五まで生きると言ふ母その頃は俺も七十三だよ 言ひて笑へり〉は字余りを結句できりかえして印象的な場面となった。

竹中優子「飴玉」10首(角川「短歌」11月号)
〈飴玉は父親のようきいろくて仄暗い舌に舐められている〉が五首目で、ここからの「父親」をうたったうたがことに印象深かった。まずこの一首には、竹中さんらしい不穏さと眼差しがあり、しかしそれはある一面に過ぎない。この粘り気がありながら、一方ではあっけらかんとしていたりして、その多面的なところにひきこまれる。

小池光「天道虫」20首(「歌壇」12月号)
二十首のなかで話題をころがしながら、つまり話題はいくつもいくつもありながら、一方で一首としては意味ではなく韻律や文体で読ませる、というのが小池さんの連作のおもしろいところである。〈間違へることをりふしにあるべくしてしのの子がさな、さなの母しの〉は子の「しの」孫の「さな」のひびきの連関をたのしげにうたう。

9月の連作

2020年9月の諸誌紙から、気になる連作をピックアップします。(順不同)

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大松達知「Tokyo Blue」12首(「現代短歌」9月号)
「窓」の特集。「窓」のうたがさまざま並んで、「窓」とは何か、思考をうながすようなところがある。四首目〈「すいませーん、上からですいませんけども、そこにお願いします、すいません」〉は窓から身を乗り出して階下のひとに声をかける。十首目〈にんげんは〈窓〉を通らず 教室に窓から入る中学生あり〉は学校の風景。

永田紅「Zoomと天窓」12首(「現代短歌」9月号)
Zoomやらなんやらを使うようになって、それからの日々をうたう。特集のテーマは「窓」。四首目〈窓枠が並ぶがごとし顔顔顔 隣の部屋へはみ出せぬまま〉、七首目〈ミーティング終わればさっさといなくなる窓は閉じるというより消える〉など。八首目〈四月には皆いきいきと退出の際に手などを振りておりしが〉に、ああそうだったなあ、とおもう。こういうところから、「天窓」へうつっていく。

斉藤斎藤「エッセンシャル・ワーク(3)」30首(「短歌研究」9月号)
「V 4月第2週/6月第4週(承前)」「VI 4月7日(火)」を収める。「作品連載三十首」とあるが、数えてみると二十七首という感じがする。九首目〈国民に寄り添うあまり日本語がねじれる陛下のそういうところ〉は、「私たち」という表現をめぐる考察をうけての一首。総理の「私」と天皇の「私たち」。「ひとりびとりの命に、まっすぐに向き合い過ぎた」とき、二十三首目〈一度きりのぼくの人生がこいつらに吸い取られてく気がするだろう〉は植松死刑囚をうたう。

佐伯裕子「心」5首(「短歌往来」9月号)
三首目〈終わりなく答え欲しがる夏休みていねいに応えてあげればよかった〉、こういう後悔がずっとついてまわる。「心といえる手に余るもの」をはぐくみ、引きこもりとなった息子。その息子が外へ出て働くようになってどれくらい時間が経っただろうか。大きな時間をふくんだ一連。

前田康子「声音」5首(「短歌往来」9月号)
「二人子」の様子がそれぞれ描かれている。二首目〈面接より戻りて眠りいる夕の足指にまだ力入れしまま〉は娘だろう。面接のときそのままに「まだ力入れしまま」なのが切ない。四首目〈東京には来るなのメール 電話ならどんな声音で子は言っただろう〉はすでに家を出ている息子のほう。「東京の新感染者また100人を越える」という詞書が付く。子は子でおもうことあり、親は親でおもうことあり。

岩内敏行「学校」5首(「短歌往来」9月号)
休校がとけて、学校がはじまるというときをうたう。三首目〈一日がふたたびながくなるだろう あねといもうと二人の寝息〉におもいがこもる。かつて自分が学校に通っていた時間もかさなって映る。休校によって、一日の時間の流れがかわってしまった「二人」の、きょうの「寝息」、明日からの「寝息」。

篠弘「生くるとは」20首(「歌壇」9月号)
四首目〈山鳩は暗きうちより鳴きつづけ来客を待つ日は冴え返る〉の「冴え返る」のような妙にハイテンションなところがいい。八首目〈シベリアに抑留されしは五八万人ロシアの患者はその数越えむ〉はこういう比較になってくるのだと息を呑む。連載の終わった「戦争と歌人」が本になるようだ。十五首目〈まばたきの少なきわれに眼科医は遠くを見よと立ち上がりたる〉も結句の展開が読ませる。

青木昭子「風の伯爵夫人」20首(「歌壇」9月号)
語りかけるような文体に力がある。六首目〈柔かく煮えて香にたつ春牛蒡さうか五年か、がんばつたなあ〉の五年は夫亡き後の五年であると、ひとつ前のうたからわかる。十四首目〈マンゴーのむんむん匂ふ滴りを頬ばる時の集中力はや〉など、粘りづよいことばの連なりが印象的だった。

8月の連作

2020年8月の諸誌紙から、気になる連作をピックアップします。(順不同)

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黒﨑聡美「得意げ」12首(「うた新聞」8月号)
〈木曜に来たからモクという猫のおなか撫でていたむかしの夏に〉という一首ではじまる。四句に生のことばが放り出されたかとおもえば、結句では「むかしの夏に」という書きことばの緊張があって、その緩急に引き込まれる。一首にある感じ方のおもしろさ、書き方の独特なところが、一連にゆるやかなまとまりを与えているようだ。

志野暁子「石」3首(「うた新聞」8月号)
昭和ひとけた生まれの特集から。「石」とは「百度石」のことで、はじめ二首にうたわれる。〈草陰にひつそりとある百度石識る人もなし雪に濡れつつ〉、「ひつそりと」したうたい口が印象的な一連三首である。大きな形ではなく、「識る人もな」いもの・ことを静かにうたうところに、圧してくるものがある。

田村元「ビール券」5首(「現代短歌新聞」8月号)
このところの生活をうたった小品。〈叔母の字でメモが添へられ手作りの〈オバノマスク〉が三枚届く〉など、生活の変化をどこかたのしむ姿に特徴があると言えようか。メモ書きの〈オバノマスク〉は「叔母」さんのユーモアだろう。二枚ではなく「三枚」というのも張り合う感じがあってたのしい。

古谷円「大夕焼け」5首(「現代短歌新聞」8月号)
「父母のいない実家」をめぐる一連五首。〈青空を注ぎにゆこうか父母のいない実家のくらやみを開け〉、もう誰も住んでいないのである。大きなうたい起こしにまず掴まれる。その「父母のいない実家」であるが、「もういらぬ」のであり、しかし「感情やどす」のであり、けれども「生家ともらず」なのである。大きうねりある一連。

睦月都「王さまと政治家」10首(角川「短歌」8月号)
二首目〈春の日をこもりてをれば机がだんだんやはらかくなりて卵も割れぬ〉といったはみ出していく文体にいくぶんおどろきながら、連作の終盤へかけての盛り上がりがこころに残った一連。〈星からも遠い日は肉をもむやうな肉筆で手紙書きつけてゐたり〉の「肉をもむやうな」は直喩だが、隠喩とともに緊張感のあるのにつかまれる。

田村元「鶯色」13首(「短歌往来」8月号)
やはりこのところの生活をうたった一連で、ひとりの人のこころの動き、行動の記録、という感じのささやかなうたの積み重ねが、忘れかかっていた日々のひとつひとつを思い起こさせる。〈町内のドラッグストアに満ち足りぬこころはバスで駅前に出る〉、町内でことたりるかもしれないが、そういう日々がかさなれば、「満ち足りぬ」ということにもなろう。「駅前に出る」べきかいなか、を外部から判断されるいわれはないのである。

鈴木ちはね「tokyo2020」20首(「ねむらない樹」vol.5、2020.8)
結句にむかって絞られていく、という感じのない一首のあり方にたちどまりつつ読んだ。〈それにしても大塚愛はどんな日を「泣き泣きの一日」と思ったのだろう〉〈公園でキャッチボールがきれいだね どんどん距離が広がっていく〉〈公園の滝は工業用水を循環させている夏の滝〉など、体や思考が世界に滲みでていくような印象がある。

斉藤斎藤「エッセンシャル・ワーク(2)」20首(「歌壇」8月号)
つづきもので、今作は「IV 6月第4週」と「V 4月第2週/6月第4週」からなる。Vでいきなり紙面がまっくろになっておどろいたが、引用がゴシック体で書かれているようだ。うたも引用だらけになっていく。それがさらに後ろのほうにいくと、詞書と短歌のポイントまで逆転しながら、なにかおどろおどろしい感じになっていく。

花山周子「五月九日から六月七日まで」30首(「歌壇」8月号)
日付のあるうた。五月十日(日)、〈腹這いで生理痛をやり過ごす地面のような午後の時の間〉、「腹這い」も「地面のような」も「時の間」もすごくてくらくらする。これが五月二十日(水)には〈腹這いで漫画を読んでいる娘が一年ごとに巨大化しおり〉につながっていく。絞り切る、という感じの迫力がとぎれることなく続く一連。

プロフィール

山下翔(やました・しょう)

Author:山下翔(やました・しょう)
▶︎1990年生。2018年、『温泉』(現代短歌社)を刊行。「やまなみ」所属。
▶︎『温泉』ご購入はこちらから。現代短歌社のオンラインショップです。
▶︎お問い合わせ、ご依頼はs.ohsamay@gmail.com(@は半角に変えてください)までご連絡ください。

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